5 月 8 日、Odd Dreams Digital 開発 / Secret Mode パブリッシュの『Everything is Crab: The Animal Evolution Roguelite』が Steam にリリースされました。1200 円(執筆時点で 10% 割引 1080 円)。英語版レビューは 1,690 件中 90% が好評、全言語合計 4,000 件超で「やや好評」のステータス。インディーローグライトとしては好調なスタートです。
このゲーム、タイトルが「Everything is Crab(すべてはカニ)」というところからもう面白くて、実はそれがそのままゲーム設計の核になっています。何度進化させても、どの方向に進めても、最後にはなぜか全部カニになる(はず)。これがオチ。
これ、生物学のネタを知ってる人にはたまらない構造をしています。今日はこのゲームの設計を、その背景も含めて整理しておきます。
プレイヤーは「何の特徴もないスライム」から始まる
プレイヤーは最初、特徴のない、スライムみたいな単純な生物として始まります。脚もない、目もない、爪もない、ただのプニプニした原始生命体。
そこから、ラン中の進化選択を繰り返して、体のパーツを少しずつ獲得していく。あるラン中の選択肢で甲羅を手に入れる。次のラン中の選択肢で目が増える。さらに次で触手が生える。クチバシを手に入れる。脚が増える。鱗で守る。毒を持つ。翼を生やす。進化の選択肢は 125 種類以上用意されていて、ラン中の選択次第で全く違う生き物に育っていく。
タイトルが言う「収斂進化」というジョーク
このゲームのタイトル『Everything is Crab』は、生物学のネタを下敷きにしています。元ネタは「収斂進化(carcinization、カルシニゼーション)」という用語。実際の自然界で、何度も独立に、別系統の甲殻類がカニのような形に進化してきた現象です。系統的にはまったく違うグループが、なぜか何度もカニ型に収束する。生物学者の間で「自然はなぜカニを作りたがるのか」と長くジョークになってきた話題で、ネット上では “Nature keeps making crabs” というミームとして広まっています。
このゲームは、その「自然界はカニを作りたがる」というジョークを看板に掲げているローグライト。プレイヤーは無特徴の生物から始まって、進化を重ねて最終的にカニになる…はず。
ところが実際のプレイでは、とんでもないキメラになる
プレイしてみると、実際のプレイヤーの育成結果はぜんぜんカニじゃない。
選んだ進化の組み合わせ次第で、触手だらけのモンスターになったり、目玉が異様に多い妙な生き物になったり、翼と毒と巨大化を欲張った結果よくわからない空飛ぶ怪物になったり。「収斂進化でカニ」のはずが、目の前にいるのはどう見てもとんでもないキメラ。
このゲームの裏の面白さは、タイトルの看板(収斂進化=カニ)と、実際のプレイ結果(むちゃくちゃなキメラ)のあいだのズレにあります。「自然はカニを作りたがる」と宣言した上で、プレイヤーには進化の自由を許して、結果として「えっこれカニ?」と笑えるものを作らせる。
自然界のメタビルドはカニ、という強烈な前提
ローグライトの世界には 「メタビルド」 という概念があります。コミュニティが研究を重ねた結果、これが最強・最も安定・最も美しい組み合わせ、と認識される定型のビルド。Slay the Spire でいう「殴打ボックス」系、ヴァンサバなら「クリスタル一極特化」のような、システムの上で自然に浮かび上がってくる収束点のことです。
『Everything is Crab』のタイトルが上手いのは、これに対して、「自然界というローグライトのメタビルドは、カニなんだよ」 と最初から宣言しているところです。
収斂進化(carcinization)という現実の生物学現象は、見方を変えれば 地球という長大なローグライトのメタ解析の結果、何度回しても「カニ」というビルドが浮かび上がってきた、ということでもある。系統が違っても、環境圧の最適解として「カニ」に収束する。何百万年もかけた自然界のコミュニティ研究の結論として、攻略 wiki に書かれてるテンプレみたいに「カニになるのが正解」が出てしまっている。これは生物学のジョークとしても、ゲーム設計のジョークとしても、なかなか強い前提です。
でもプレイヤーは外れて遊び、たまに「カニ目指すか」とニヤニヤする
このメタビルドの宣言を背負った上で、実際のプレイヤーがどうするかというと、普通に好き勝手なビルドを組んで、変なキメラを爆誕させていく。ローグライトとしての「ランダム提示から臨機応変に組み立てる」遊びは、ちゃんと成立している。触手まみれにしたり、目玉だらけにしたり、翼と毒で空飛ぶ怪物を作ったり。「自然界が認めた最適解」を完全に無視した方向に走れる。
つまり 「自然界のメタビルドはカニ」と看板で宣言された上で、プレイヤーは敢えてそこから外れる自由を行使している、という構造になっている。普通のローグライトでは、メタビルドは「コミュニティが発見するもの」「攻略情報を見ないと分からないもの」だけど、このゲームはメタビルドの正解を看板で先に開示して、それでもプレイヤーは外れたところで遊ぶ、という関係になっている。
そしてここが本当に上手いんですが、ときどきプレイヤーは 「今回はカニを目指してみるか」 という気分になる。看板で宣言されたメタビルドを、敢えてなぞりにいく遊び方。Slay the Spire で「今回はテンプレ通り殴打ボックス組んでみよう」と決めるのと同じ感覚で、「自然界が認めた最適解のカニを再現してみるか」と思いながらニヤニヤする。ゲーム内でも「カニ化値」メーターがあり、どれだけカニ化したかを視覚的に教えてくれる。それでも実際に目指してみると、選択肢のランダム性とラン中の必要に応じた判断で、結局またへんてこなものができたりする。
後発のローグライト設計として参考になりそうな点
このゲームを観察していて気づいたのは、ローグライト設計における 「メタビルドを誰がいつ提示するか」 という変数の使い方がすごく面白い、ということ。
普通のローグライトでは、メタビルドはコミュニティが発見します。発売後何ヶ月かして、攻略 wiki やフォーラムで「これが強い」が固まってくる。プレイヤーは知らない状態で遊び始めて、徐々に「正解の形」に近づいていく。
『Everything is Crab』はその順序を反転させた。メタビルドの結論をタイトルで先に宣言して、プレイヤーがそれを意識した上で自由に外れて遊べる、という設計。それが「自然界の収斂進化=カニ」という現実のネタと噛み合っているから、嫌味なメタゲーム感じゃなく笑いになる。
後発の作り手として考えると、「このゲームのメタビルドはこれです」と先に開示するローグライトはもっとあっていいのかもしれない。プレイヤーがそれを目指すか、敢えて外れるか、を主体的に選べる構造。攻略 wiki の代わりに、ゲーム自身が攻略の頂点を最初に名指ししてしまう。そのうえで、外れた遊びがちゃんと面白くなるようにする。これは「クリエイティブモード」や「サンドボックス」とはまた違う、メタビルド開示型ローグライト、と呼べそうな考え方でした。
まとめ
『Everything is Crab』は、「自然界のメタビルドはカニだ」 という現実の収斂進化のジョークを、ローグライト設計の前提に据えた作品です。タイトルでメタの正解を開示しつつ、実際のプレイでは自由なキメラビルドが許されていて、プレイヤーは外れて遊んだり、たまにメタを目指してニヤニヤしたり、結局またキメラに着地したりする。
後発のローグライトを作る側として、「メタビルドを先に開示する」 という設計の使い方を、観察し続けたい作品でした。
アイキャッチ画像: Steam ストアページ © Odd Dreams Digital / Secret Mode
ソース: Steam ストア(Everything is Crab: The Animal Evolution Roguelite)
関連記事:
- ヴァンサバライクはもう「ジャンル」じゃなく「フォーマット」になってきた — ヴァンサバ系全体の動向
- 2026 年の個人ゲーム開発トレンド 5 選 — インディー全体のトレンド分析