2026 年 6 月 12 日、SQUARE ENIX GAME CONTEST 2026 の公式サイトが更新され、「AI 利用ガイドライン」の本文と企画書の詳細が公開されました。
このコンテストについては、応募資格を整理した記事で「AI 利用ガイドラインは近日公開予定。本文が出たら必ず読むべき」「業界の AI 利用ルールの試金石になるかもしれない」と書きました。その本文が出たので、生成 AI を使って個人でゲームを作っている立場から、中身を読んでみます。
まず大枠 ― 生成 AI を「容認」と明文化した
いちばん大きいのは、生成 AI を含む AI 技術の使用を容認すると、はっきり書いたことだと思います。賞金最高 3 億円・総額 10 億円という規模のコンテストで、大手パブリッシャーが「AI を使っていい」と明文化した。これは時代の節目として記録しておく価値があります。
ただし無条件ではなく、位置づけは 「応募者の創造性を補助・拡張するツール」 として。そのうえで「第三者の権利を侵害しないこと」「制作過程における使用状況の透明性を確保すること」が要件として並びます。使うのは自由、でも開示して、権利は自分で保証してね、という構えです。
いちばんはっきりした線 ― 特定個人の模倣は「審査対象外」
読んでいて、これがいちばん明確なレッドラインだと感じました。
特定個人の声・絵のスタイル等、個性が認識可能な場合は審査の対象外
つまり、「あの絵師さん風」「あの声優さん風」を生成 AI で出した作品は、その時点で審査から外れる。生成 AI 界隈でずっと論点になってきた「特定クリエイターの作風の模倣」を、コンテスト側が正面から「対象外」と切った形です。曖昧にせず審査基準として書いてきたのは、個人的にはフェアだと思いました。自分のオリジナルを作る分には何も困らないし、むしろ「誰かの模倣で勝ち抜けることはない」と明示されている方が、まっとうに作っている人にとって健全です。
開示義務がかなり細かい
前回の記事で「開示はどこまでの粒度を求めるのか(ツール名だけか、もっと細かいか)が未確定」と書いたんですが、答えが出ました。かなり細かいです。応募時に申告するのは、
- 使用した AI ツール名・モデル・バージョン名
- どの工程で、どのように AI を使ったか
- 使用時期
しかもこれは別紙ではなく、企画書のテンプレート自体に「AI ツール名・モデル・バージョン・使用箇所」という記入欄が組み込まれています。AI の申告が、企画書を書く工程に最初から織り込まれている。「あとで聞かれたら答える」ではなく「最初から書くもの」という設計です。
さらに踏み込んでいるのが、自分で開発・学習させた AI ツールを使う場合。この場合は「学習データおよび権利処理状況について詳細情報の開示を求める」とあります。既製の生成 AI を使う分にはツール名・モデル・工程の申告で済みますが、自前でモデルを学習させているなら、その学習データの素性まで問われる。ここはハードルが一段上がります。
ゲーム内で AI が「動く」作品への規定もある
地味だけど先を見ているな、と思ったのが、ゲームの中でリアルタイムに AI が動作する作品への規定です。たとえば NPC の会話を実行時に生成 AI で回すような作品。これに対して、
- ユーザーの入力を、その AI 機能の提供以外の目的で利用しないこと
- ユーザーの入力を保持しないこと(ログ蓄積・追加学習などをしない)
- 審査時に発生する AI の利用料等は応募者が負担すること
と定めています。プレイヤーの入力をこっそり学習データに回したりしない、というプライバシー側の配慮と、「審査中に API を叩くなら、その費用は応募者持ち」という現実的なコスト面の線引き。AI 内蔵型のゲームを出す人にとっては、ここは事前に読んでおかないと事故ります。
責任は、基本的にぜんぶ応募者
権利面の構えはシンプルで、リスクは応募者が引き受ける形です。
- 応募作品の著作権は原則として応募者に帰属
- AI 生成物を含め、第三者の知的財産権を侵害していないことを、応募者が表明・保証する
- ハルシネーション等で事実に反する情報や不適切な表現が混入した場合の責任も応募者
- AI 利用に関連して応募者と第三者の間で紛争が起きても、主催者は責任を負わない
そして商品化が決まったときには、「AI で生成した箇所を手作業で修正・再構成してほしい」とお願いされることがある。商用製品としての権利の完全性と品質を確保するため、と理由まで書かれています。前回の記事で注目していた「商品化時のリライト・再構成」は、今回も方針として明記されました。
コンテストの外の話 ― 絵と声は見抜けるが、文章とコードは?
ここからはこのコンテストに限らない、もっと広い話として考えたいんですが、絵や声は、権利侵害かどうかが比較的わかりやすい部類だと思います。「あの絵師さん風」「あの声優さん風」は、見たり聞いたりすれば人間が気づける。スクエニの「個性が認識可能な場合は審査対象外」というルールが成立するのも、出力物そのものを目と耳で判定できるからです。
問題は、NPC のセリフ生成やプログラミングコードの生成は、出力を見ても侵害かどうか判定しにくいこと。ここでは、絵や声で効いていた「見ればわかる」が効きません。
NPC のセリフ ― 「私が村長です」は、誰のものか
テキストは、そもそも著作権で守られる単位が大きくて具体的です。短くて機能的でありふれた表現は、保護の対象にならない。生成された NPC セリフの多くはこれに当てはまるので、「実害が少ない」と言える。最初、僕はこの説明の例として 「私が村長です」 を出そうとしました。これ以上ないくらい無個性で、誰のものにもなりようがない一文の代表として。
ところが、ここに落とし穴があります。ロマサガ3 のファンが「私が村長です」と聞いたら、あのセリフだと一発でわかる。つまりこの一文は、字面だけ見れば究極に generic なのに、知っている人にとっては特定作品のセリフとして認識される。同じ文字列が、非ファンには無個性なボイラープレート(安全)、ファンには「個性が認識可能」な引用(=ガイドラインが対象外にする、まさにそれ)として、同時に成立してしまう。
ここがテキストの本質的な難しさだと思います。「個性が認識可能か」は、字面ではなく、読む人の記憶の中にある。絵なら作風が画面に「見える」から判定できるけれど、テキストの recognizability は文化的記憶に宿るので、出力をいくら睨んでも判定できない。しかも法律的には、この一文は短すぎてそもそも著作権で保護すらされない(=侵害にはならない)。なのにコンテストの「個性が認識可能なら対象外」という基準は、著作権より広いところを見ているので、法的にはセーフな引用でも引っかかり得る。recognizability(思い出せる)と protectability(権利として守られる)は、別物なんです。
そのうえ厄介なのが、AI は「ありがち」な中心を出してくること。放っておくと、有名だけど generic に見えるこの手のセリフを、開発者本人すら「これ引用だ」と気づかないまま再生してしまう可能性がある。そして自分は、よりにもよって『サガサバイバーズ』というサガへのオマージュを作っている。もし自分の NPC に「私が村長です」と言わせたら、それは無意識のオマージュなのか、狙った引用なのか、ただの偶然なのか。generic に見える一文の中にも、ドット絵と同じ murky な場所がある、というのが、今回いちばんゾッとした気づきでした。
コード ― 「同じ動作」ではなく「ライセンス汚染」に注意
コードはさらに特殊で、論点がずれます。まず、著作権が守るのは書き方であって、動作ではない。「あるゲームと同じ挙動のコードを AI が書いた」は、まず侵害になりません。同じ機能を独立に書き直すのは自由だからです。機能的・定型的なコードは、表現の幅が狭く保護もされにくい。
本当に注意すべきは、ライセンス汚染の方です。AI コード生成は大量の OSS を学習しているので、GPL のようなコピーレフトなコードを実質コピーで吐いてしまうと、「侵害」というよりライセンス違反になり、最悪プロジェクト全体に公開義務が及ぶ。商用ゲームにとっては、こっちの方がよほど怖い。皮肉なことに、検出ツールが一番整っているのもコードで、クローン検出やライセンススキャナで「この断片は公開コードと一致」と機械的に弾けます(ただし既知の公開コードとの一致しか見つけられないのが限界)。
見抜けないものは、検出ではなく「申告と責任」で処理されている
こうして並べると、ガイドラインの作りが見えてきます。見抜けるもの(絵・声)は審査基準(対象外)で対応し、見抜けないもの(コード・セリフ)は、申告と責任で処理している。具体的には、応募者が「侵害していない」と表明・保証し、紛争やハルシネーションの責任は応募者に帰属し、商品化時には AI 生成箇所を手作業で修正・再構成する。検出が効かない領域は、「検出」から「自己申告+責任の引き受け」へ、判定方式がこっそり切り替わっている。これは批判ではなく、現実的にそうするしかない、という話だと思います。出力を見ても分からないものを、審査で見抜くことはできないので。
自分(サガサバイバーズ)に当てはめてみる
このガイドラインを、自分の制作スタイルに重ねてみます。今『サガサバイバーズ』は、コードは Claude Code、音楽は Suno、ドット絵は生成 AI で下書きして最後は自分で打つ、という作り方をしています。
コードと音楽は、ツール名・モデル・バージョン・工程・時期を申告すればいい。Suno で作っている曲も、自分のオリジナル詞で、特定アーティストの声や作風を狙ってはいないので、「特定個人の模倣」のラインにも触れない。ここは普通に申告すれば通る範囲だと思います。
正直に書くと、あやしいのはドット絵です。以前 devlog #02 で「生成 AI でドット絵を試したけど『AI み』が抜けないので、結局自力で打つことにした」と書きました。これだけ読むと「AI は補助、最後は人の手で仕上げる」という、ガイドラインが求める形に収まっているように見える。書いた当時は、自分でもそう思っていました。
でも、よく考えると都合のいい話で、手で仕上げているから安全、とは言い切れない。というのも、下絵を作る段階で、SFC 時代のロマサガをかなり意識しているからです。あの時代のドット絵の質感や色の置き方を狙って下絵を起こしているので、いくら最後を手で打ち直しても、その「狙った個性」がそのまま残っていたら、まさに『個性が認識可能』のラインに触れ得る。手作業フィニッシュは、AI み を消す役には立っても、参照元の個性を消す保証にはならない。
しかも厄介なことに、ロマサガはスクエニ自身の資産です。そして自分の作っているものは『サガサバイバーズ』という、サガへのオマージュを掲げたタイトル。スクエニのコンテストに、スクエニ作品の見た目を意識したドット絵で出す、という構図になりかねない。ここは、自分の中でいちばん murky な場所だと、今回ガイドラインを読んで自覚しました。
さっき「絵や声は見抜きやすい部類」と書きましたが、その見抜きやすいはずの領域の中にも、「ある時代の雰囲気を漂わせる」(広くて安全)と「特定作品の個性が認識できる」(アウト寄り)のあいだの、ぼんやりした境界線があります。自分はちょうどその線の上に立っている。自分のドット絵が「レトロ JRPG 風」で済むのか、「これロマサガだ」と認識されてしまうのか。この問いに、今はまだきれいに答えられません。ここは正直に、これからの宿題として残しておきます。
まとめ ― 思っていたより踏み込んでいた
前回の記事で「業界の AI 利用ルールの試金石になるかもしれない」と書きましたが、実際の本文は、予想していたより具体的に踏み込んでいました。容認すると明言したうえで、模倣のレッドラインを引き、開示の粒度を企画書テンプレに織り込み、リアルタイム AI のプライバシーとコストまで規定する。「AI を使うな」でも「使い放題」でもない、「使っていい、ただし開示して、権利は自分で持て」という線を、賞金規模の大きいコンテストが先に引いた。
このガイドラインが今後、他のコンテストや出版社に参照されていくのか。それとも、もっと厳しい/緩い方向に各社が分かれていくのか。AI 時代にゲームを作る個人として、この線がどう広がるかは引き続き見ていきます。そして自分の宿題としては、まずあのドット絵が「レトロ風」で済むのか「ロマサガ」なのかを、申告できる形で記録を残しながら、自分の手で確かめていくところから始めます。
ソース: AI 利用ガイドライン(SQUARE ENIX GAME CONTEST 2026 公式) / 企画書について(同)
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