スクウェア・エニックスが開催する「SQUARE ENIX GAME CONTEST 2026」は、賞金最高 3 億円・総額 10 億円 という、個人ゲーム開発者にとって過去最大級のチャンスです。提出物の柱は 10 ページ以内の企画書 PDF ですが、「ゲーム企画書を一度も書いたことがない」という個人開発者は少なくないはずです。
この記事では、Web に散らばるプロのゲームプランナー・元 Capcom プロデューサー・海外インディー業界の知見を横断的に読み直し、企画書の「黄金律」と、スクエニ要項に合わせた 10 ページの埋め方を、ゲーム開発初心者が最初の 1 本を書き上げるための地図としてまとめました。
スクエニコンテストの企画書要項、まず 1 分で把握する
公式の 提出要項を圧縮するとこうなります。
- 形式:PDF、10 ページ以内
- 提出物 3 点セット:企画書 PDF + プレイ動画(YouTube 限定公開・最大 20 分)+ 実行ファイル ZIP
- 記載項目は 4 ブロック:基本情報 / 内容・面白さ / ビジュアル・仕様 / ビジネス・開発計画
- 「全てを網羅する必要はありません」と公式に明記
- 審査基準:新規性・独創性・娯楽性・完成度
- 締切:2027 年 3 月 15 日(月)23:59、結果発表:2027 年 6 月 30 日(水)
注目すべきは、一次審査が 企画書 + プレイ動画 で行われる点です。つまり「企画書だけで通すゲーム」ではなく、「動くものと噛み合った企画書」が前提です。机上の企画ではなく、プロトタイプと並走して書くものだという認識から始めるのが安全です。
Web を横断して見えた、ゲーム企画書の「7 つの黄金律」
複数のプロのゲームプランナー解説、ゲーム会社の応募ガイド、海外インディー業界の定石を見比べると、表現は違っても 繰り返し同じことを言っている箇所があります。それを 7 つに整理しました。これが企画書の幹です。
① 「一言コンセプト」が全てを決める
30 秒で読み終わる 1〜3 行のコンセプトが、企画書全体の評価を決めます。これが弱いと、残り 9 ページは読まれません。テンプレートはこうです。
「<どんな体験>」ができる「<ジャンル>」。「<なぜそれが新しい / 面白いのか>」。
たとえば「単身で敵地に潜入するステルスアクション。隠れて進む緊張感が病みつきになる」のように、体験 + ジャンル + 独自性が 1 文に圧縮されているかを基準にします。「神ゲー」「最高の体験」のような抽象語、「○○のようなゲーム」のような既存タイトル依存は、ここで弾かれます。
② USP(独自体験価値)を 1 つだけ尖らせる
USP は「このゲームでしか味わえないこと」を 1 つだけ言い切る概念です。複数のウリを並列に書くと、すべてが弱く見えます。1 点突破が原則で、補足要素は後ろのページで補強する設計が読みやすくなります。
③ デザインピラーを 3 本立てる
海外インディー業界では「Design Pillars(設計の柱)」という考え方が広く使われています。たとえば『Hades』のピラーは「fast, fluid combat」「narrative depth through repeated runs」など、短い名詞句で表現されます。
ピラーを 3 本決めると、以後のすべての機能採否がこの 3 本に照らして判断できるようになります。ピラーに合わない機能は、どれだけ面白そうでも切る。これがあると企画書も実装もブレません。
④ コアループは「動詞」で書く
抽象論ではなく、プレイヤーが繰り返す行動を 動詞の矢印で書きます。たとえば「探索 → 素材獲得 → クラフト → 強化 → 探索」のように。ループが 1 周で楽しいか、100 周で楽しいかが、ここで伝わります。
⑤ ターゲットは「絞るほど強い」
「全年齢」「みんな」「ゲーム好き」は誰にも刺さりません。「20 代男性、ソウルライク経験者、1 日 2〜3 時間プレイ可能、難易度高めを好む」のように、具体的なペルソナを 1 人だけ描く方が、結果として広く届きます。これは個人的にも何度も意識し直している部分です。
⑥ 物語構造でプレゼンを設計する
企画書はレイアウトより ストーリーアークで組みます。1 ページ目で最大の引きを置き、中盤でメカニクスを説明し、転換点でプレイヤーの成長・変化を見せて、最終ページでリプレイ性・将来性に着地する。順序が物語になっている企画書は、読み手の集中が切れません。
⑦ 企画書は「判断軸」として使えるか
これが最も実務的な黄金律です。企画書は提出して終わりではなく、開発中に「この機能、入れる?」を判定する 判断軸として機能します。コンセプトとピラーが明確だと、機能ブロート(盛り過ぎ)を自動的に防げます。提出後にこそ価値が出る文書です。
公式の 4 ブロックを、何で埋めるか
スクエニの 4 ブロックそれぞれに何を書くか、黄金律と合流させて整理します。
基本情報
- 氏名/チーム名/法人名
- タイトル(仮タイトル可)
- ジャンル
- ターゲット(具体ペルソナで)
- プラットフォーム(PC・モバイル)
- 一言コンセプト(黄金律 ①)
- 完成度(プロトタイプ完了 / α 版 / β 版 など)
内容・面白さ
- ゲームサイクル(コアループの動詞連鎖:黄金律 ④)
- ストーリー・世界観(大筋+設定 3〜5 行で十分)
- セールスポイント(USP の補強:黄金律 ②)
ビジュアル・仕様
- ゲーム画面写真(実機キャプチャを推奨。モックでも可)
- 操作方法(コントローラ図やキーバインド表)
ビジネス・開発計画
- 販売・収益モデル(買い切り / 基本無料+課金 / サブスク 等)
- 開発チーム体制(個人なら「個人開発」と明記)
- スケジュールと現在の進捗
公式が「全てを網羅する必要はありません」と書いている通り、強い項目を 7〜8 割の力で書き、弱い項目は素直に省く方が、全体の印象は良くなります。10 ページに無理やり詰めると、コンセプトの輪郭がぼやけます。
10 ページの推奨配分 — まずはワンページャーから
ゲーム開発初心者が最初にやるべきは、10 ページではなく 1 ページ版(ワンページャー)を作ることです。これが核で、ここから 10 ページに膨らませます。
ワンページャー(1 枚版)の構成
- タイトル + キービジュアル + 一言コンセプト
- ジャンル / プラットフォーム / ターゲット / プレイ時間
- ゲーム画面 1〜2 枚
- コアループ図(5〜6 個の動詞)
- セールスポイント 3 点まで
これを 不慣れな第三者に見せて、30 秒で「どんなゲームか説明できる」かをテストします。説明できないなら、10 ページに進む前にコンセプトに戻る方が早いです。
10 ページ版への展開(推奨配分)
- P1:表紙 — タイトル、キービジュアル、一言コンセプト、ターゲット、ジャンル
- P2:コンセプト深掘り — USP、なぜ今このゲームか、デザインピラー 3 本
- P3:ターゲットと市場 — 具体ペルソナ、類似ジャンルの動向
- P4:コアループ図 + ゲームサイクル(短期・中期・長期の 3 スケール)
- P5〜P6:ゲーム画面写真 + 操作方法
- P7:ストーリー・世界観
- P8:セールスポイント / 競合との差別化
- P9:ビジネス — 収益モデル、想定価格、想定規模
- P10:開発体制 / スケジュール / 現在の完成度
この配分は絶対ではありませんが、「1 ページ 1 テーマ」を守ると、読み手の認知負荷が大幅に下がります。1 ページに複数の論点を詰めるくらいなら、項目を削る方が結果的に印象が強くなります。
ゲーム開発初心者が陥りやすい落とし穴
調べていてもっとも多く指摘されているのが、初心者が同じパターンで失敗するという話でした。代表的なものを並べておきます。
- ストーリーだけ書いてゲーム内容ゼロ — 一次審査落ちの最頻パターン。世界観は脇役、ゲームサイクルが主役
- ページを文字で埋める — 余白を埋めない方が読まれる。画面 1 枚で語る方が強い
- 機能を全部書く — ピラー外の機能は、書かない方がコンセプトが立つ
- 「○○のようなゲーム」連発 — スクエニの審査基準筆頭は新規性。既存タイトル名で説明する企画は不利になる
- 企画書だけ作って動くものを後回し — 完成度が評価軸に入っているため、プロト先行が王道
- AI ツールの開示忘れ — スクエニは AI 利用ガイドラインへの同意が義務。コード生成・画像生成・音声生成すべて開示できる準備が必要
個人的に強調しておきたいのは、最後の 2 つです。スクエニコンテストは「企画書だけで通る」設計になっていません。動く実行ファイルとプレイ動画が同じ重みで審査されるため、企画書の作成期間と実装期間は並走させるのが現実的です。
まとめ — まずは 1 枚から、ピラーで判断軸を作る
ゲーム企画書を一度も書いたことがない状態からスクエニコンテストに挑むなら、最初にやるべきは 10 ページの白紙に向かうことではなく、A4 1 枚に「一言コンセプト」「デザインピラー 3 本」「コアループ」を書ききることです。この 3 つが書けない状態で 10 ページを書くと、ブレた企画書になります。
ワンページャーが完成したら、第三者に 30 秒テストをし、そこからスクエニの 4 ブロックに合わせて展開していく。10 ページの形が見えてきたら、プロトタイプとプレイ動画と並走しながら磨いていく。締切までの 4 か月弱は、思っているより短いです。
賞金 10 億円という規模感に怯む必要はなく、要項自体は「全てを網羅する必要はありません」と書いてくれているくらい開かれています。初心者ほど、最初の 1 枚を早く書くのが勝ち筋だと思いました。
参考:SQUARE ENIX GAME CONTEST 2026 提出要項 / ゲームプランナーの企画書サンプル(ゲームデザイナーナビ) / 元カプコンのプロデューサーが教える企画書の作り方(Creators Guild) / Free GDD Template(Indie Game Academy)